鞘の備忘録

そのとき思ったことや見たこと

ボーは恐れている 感想

eiga.com

★★★★★★★★☆☆ (8/10)

  • 見た。約3時間のロングストーリーだが、それを感じさせないほど没入してあっという間に終わってしまった。ということもなく、体感2.25時間ぐらいで、長すぎ!と感じるほどではない程度には集中して見れた。

  • ささいなことですぐ不安を感じパニックになってしまう中年男性ボーの帰郷物語。話の一幕でボーが自分では何も決断できない大人になりきれていない人間で、そのような人格を形成したのは家庭環境、ひいては母親との確執に起因しているのがなんとなくわかってくる。そんな中、母親がシャンデリアの下敷きになり頭が潰れて死んだと知らせを受けて、呆然自失になるも急いで母親のもとへ向かうも...というのが大まかな流れ

  • ヘレディタリー/ミッドサマーも抽象的な表現が多かったけど、今作は過去一だった。序盤から明らかなボーの妄想が合間合間に差し込まれるからどこまでが現実なのかわからずさぁ考察してくださいという感じ


よくわからなかったものリスト

  • ボーの自宅に大勢が押し寄せてパーティーをしていたこと

    • 自分の内すら他人に易易と踏み荒らされコントロールできない心象を具現化したもの
    • 母親の差し金で本当に大勢が押し寄せてきていたもありえそうだけど意図がわからないからボーの妄想な気がする
  • 風呂場の天井に張り付いていた男

    • 何?
    • 天井から落ちてきた水滴から、ボーがこうだったら嫌だいう空想を描いたもの説
  • 森の劇団

    • 存在が都合良すぎる。ボーの境遇を重ねやすい劇の内容からして妄想っぽい
  • トニがペンキを飲んで自殺

    • ペンキを飲んで自殺って新しすぎてどういうことかわからなかった。なにかペンキに意味があるのか
    • トニの母親グレースは盗撮を教えてくれたり、モナの息が完全にかかったわけではない人なのでその娘のトニも演じているのではないはず。ということは本当にトニは絶望して自殺に及んだ?
    • 作中では水が象徴的によく描かれる。水→羊水→母親の庇護のメタファーで、水色のペンキを飲んで死ぬ=体の内まで母親の愛を注がれるが受け止めきれずに壊れてしまったボーの心象が妄想の中であのように現れた。
      • ペンキ飲んで自殺は意味不明なのでこれも妄想な気がする。その後のグレースが「お前の正体がわかった!」ってセリフも自分の期待に答えてくれないモナが言いそう
  • エレインの腹上死

    • モナか側近が殺した?
  • 屋根裏にいたやせ細った男

    • 屋根裏に閉じ込められたときに取り残されたボーの反骨心・勇敢さを表したもの
      • ボーが見ていた風呂に入るのを拒否していた兄とされている少年はボー自身で、その時持ち合わせていた母親へ立ち向かう勇気は屋根裏送りによって打ち砕かれた
    • 本当に兄は存在していたんだよ説
      • 最初あれは父親かと思ったけど、その後の男根モンスターが父親らしいので痩せた男は兄 or ボーのはず
        • アリ・アスターはディックジョークが好きで、あのモンスターは笑いどころらしい。ヴィジュアルは確かに面白かったけど、冷静に見たら滑稽な様がどうしようもなく不安な状況とそぐわなくてそのギャップが恐怖を煽るのがアリ・アスター的ホラー演出な印象があるから、普通に結構怖く思ってしまった。ヘレディタリーの裸の中年が並んでる光景もそこだけ見たら笑えるし

  • 現実とボーが見ている光景は違っているという前提を加味した上でもやっぱり全ては妄想だったんじゃないかと思う。母親から抑圧されていたこと、荒れたアパートに住んでおりセラピーに掛かっていること、本当に母親は死んでいたこと、発狂して湖にボートで進み転覆して死んだこと、リアルワールドにおける出来事はこれだけなんじゃないか

  • 母親に近づくほどボーの体験はより激しさを増していく。自らをすべて支配しようとする母親へ憎みつつ理想の息子になれない自分自身を激しく苛むボーから見えた世界を描いたのが本作なのかなと考えてしまう。

  • ボーは何を恐れているか?「母親の期待に裏切ること」というのが自分の結論になる。

  • 過去作でも家族関係の不和(特に母親周り)を描いてるからアリ・アスターは家庭環境が良くないのかなと思ったけど母親との仲は良好らしい。けどあの解像度を想像だけで生み出すのは無理だと思うから、少なからず心に浮かんだ黒い思いを絞り出して限りなく膨らませてるんだろうなとは思う。

  • 長いけど見てて退屈はしなかったし、見終わったあと自分で考察したり他の人の解釈聞いたりする楽しみもあるからこういう抽象さがある作品はやっぱり好きだな